「笑って生きなきゃ」 ―――心素直におかま道

 手術で体まで「女性」になる人もいる。私はおチンチンがあった方が楽しい。怖いし…。「女装」するのは仕事の都合。まあ、いいとこ取りの人生ね。そう、人生なんて深刻に考えちゃいけない。

 おばさん役の二人が、好奇心いっぱいの目で、おずおずとたずねる。
 「便所は男用?女用?」
 あんこさんが答える。
 「うーん、空いてる方」
 大阪・ミナミの人気ゲイ・バー、「ベティのマヨネーズ」は相変わらず込み合っている。関西観光のツアーの団体客もあり、約百席の店内には女性客も多い。
 女を演じる十八人のニューハーフの中で、あんこさんは、決して美形ではない。体系も、田中という本名より、いまの名前の方がぴったり。間もなく四十二歳になる。
 でも、人気はナンバーワンだ。「宝塚」顔負けの店あげての華麗なステージが一日三回。コミカルな場面が出番で、客席の爆笑を誘う。
 最近はテレビにも出演、旅行会社のCMにも出た。
 「行き先は」と聞かれ、「マ・カ・オ」。
 「他にも私が出演したらヒットするCMのアイデアがあるのよ。釜(カマ)めしでしょ。釜煎(い)り茶でしょ。あと電気カミソリ」。素顔はひげが濃いのだ。

 桃山学院大学を卒業し、この業界に飛び込んだのは二十年前。最初の十年間、昼はスーパー勤務のサラリーマンと、二またかけた。「笑われること」に磨きがかかったのは、四年前に店であったタレント、カルーセル麻紀さんの一言がきっかけだった。「おかまなんだから、もう何やっても平気なのよ。もっと思い切ってやりなさいよ」
 「おかま」は「普通の社会」では簡単に受け入れられない。それをさらけ出すことに、迷いや遠慮が完全に消えた。
 「笑われることで、私の生き方がわかってもらえる、って思うようになったのね」。薄々は気が付いていた母親が戸惑いながらも、テレビで見て笑ってくれた時は、本当にうれしかった。

 男性を好きになる自分の発見過程には「大阪弁」も関係した。六歳の時、実家の広島から大阪の小学校へ転校した。言葉になじめず、大阪人なら子供でも自然に演ずる「ボケ」と「ツッコミ」の笑いの輪にしばらく溶け込めなかった。無口になる。「それで逆に感受性が尖(とが)って。五年生の時に、体育の先生に見とれている自分に気がついたのよ」
 恋はいつも一方通行だった。思いを打ち明けられないまま終わったことも多かった。いまの彼は二十歳年下の大学ラグビーの選手。月一度の食事のデートから先へは、なかなか進まない。
 「笑われ役」が、そう笑って恋愛を語る時、「いいとこ取り」という言葉がもどかしい。「それも私」と思っている。
 討論番組に出たことがある。テーマは「男らしさとは何か」。あんこさんはこう答えた。
 「自分の気持ちに素直に生きることよ」


1995年1月4日 水曜日 朝日新聞(夕刊)「あなたにウインク1」より